民法改正に伴う相続税の改正

 

◆ 配偶者居住権と相続税

 

2018年7月6日に民法が改正され、配偶者居住権が新設されました。

 

詳細は「相続お役立ち情報」を参照ください。

 

このことに関連して、相続税の計算方法が以下のようになります。

 

1) 相続税における配偶者居住権の評価額

 

建物や土地に関して、配偶者の平均余命を使って使用料を計算します。

 

大雑把に言えば、残りの耐用年数が10年で、配偶者の平均余命が7年とすると、居住権は70%という感じです。

 

正確には、金利などを考慮します。

 

また、建物と土地では計算方法が異なります。

 

建物は年々古くなって、一般的にはその価値が下がっていきます。

建物は耐用年数を考慮して計算します。

方や、土地は古くなるという事はありませんので、計算方法もシンプルです。

 

計算方法を詳しく見てみましょう。

 

配偶者居住権の計算

 

配偶者居住権の価額を、具体的に計算してみましょう。

 

土地は時価3,000万円、建物の時価は1,000万円の木造モルタル建築の例で計算してみます。

建物は築後20年、配偶者の年齢は70歳と仮定します。

  

配偶者居住権の価額

 

以下の図のような例で計算してみましょう。

 

この例では、建物の耐用年数より、お母さんの平均余命の方が長いので、お母さんが亡くなる頃には、建物の価値はほぼゼロとなります。

 

つまり、

建物の時価 = 配偶者居住権となります。

 

子供は建物の所有権を相続しますが、相続税上の価値はゼロとなります。

 

 

木造モルタル建築の耐用年数は20年 (下記の耐用年数表参照/所得税法より)
配偶者の余命は20年(厚労省 平成29年簡易生命表より)

 

残存耐用年数=20年×1.5-20年=10年
年3%の複利原価率(20年)=1÷1.03^20 ≒ 0.554

 

注:複利原価率については最後に説明をしていますので、そちらを参照してください。

 

計算式にあてはめると以下の計算になります。
 1,000万円 - {1,000万円 ×(10年 - 20年※)÷ 10年 × 0.554}

※カッコ( )の中がマイナスになるため、0として計算します

 

つまり建物1,000万円は全て配偶者が相続したことになります。

 

通常、木造の建物は20年~30年で残存価額が0円になりますので、ほとんどのケースは今回のように、配偶者が全て相続したのと同じになります。

 

但し、相続税法では配偶者の税額控除があるため、配偶者の相続割合が増えた方が、納める税金は少なくなるので、ほとんどの場合問題ありません。

 

注意:配偶者居住権の設定登記は、建物の固定資産税評価額の0.2%の登録免許税が必要です。 

 

補足
配偶者居住権が設定された建物の所有権は、以下の計算で求めます。
 建物の時価 - 配偶者居住権の価額

 

住宅用建物の耐用年数

参考:
所得税法で定められている住宅用の耐用年数(国税庁HPより抜粋)

https://www.keisan.nta.go.jp/survey/publish/34255/faq/34311/faq_34354.php

 構造・用途 耐用年数
 木造・合成樹脂造  22年
 木骨モルタル造  20年
 鉄骨鉄筋コンクリート造  47年
 レンガ造・石造・ブロック造  38年
 金属造(骨格材の肉厚)  
  4ミリ超  38年
  3ミリ超~4ミリ以下  30年
  3ミリ以下  22年

 

建物の耐用年数が長い場合

 

先ほどの例は、建物の耐用年数が少ない例でしたが、鉄筋コンクリート造等の耐用年数が長い建物の場合はどうでしょう?

 

以下の図の例で計算してみましょう。

 

 

建物の時価が1,000万円、残存耐用年数が30年、お母さんの平均余命が20年の場合

 

20年後にお母さんが亡くなったとして、その時の建物の価値は3分の1の333万円になっています。

 

これを複利原価率を使用して、現在価値を計算すると185万円になります。

 

つまり、子供が相続する所有権は 185万円です。

 

配偶者居住権は、その残り815万円となります。

 

1,000万円-185万円=815万円

 

【補足】 

建物の配偶者居住権の計算式を、正確に表現すると以下のようになります。

 

 建物の時価 - { 建物の時価 ×(残存耐用年数-存続年数)÷ 残存耐用年数 × 存続年数に応じた民法の法定利率による複利原価率 }

 

残存耐用年数:所得税法に基づいて定められている耐用年数(住宅用)× 1.5 - 築後経過年数
存続年数  :終身の場合は配偶者の平均余命年数、又は遺産分割協議等で定めた年数の短い方
(残存耐用年数 - 存続年数)が0以下の場合は0とする。

民法の法定利率:3%(2020年時点)

 

 

次は土地について確認しましょう。

 

配偶者居住権付き土地の相続税の評価方法

 

土地は建物のように耐用年数はありませんので、計算は単純です。

以下の図で説明します。

 

そのお家に住んでいたお母さんの、平均余命が20年だとします。

 

土地の所有権を持っているのは子供ですが、20年間は、駐車場にしたり、マンションを建てたりできないので、自由にできません。

 

そのために、

20年後に3,000万円の価値の土地が手に入るとして、それは今、どれくらいの価値があるかを計算します。

 

この計算に使用するのが複利原価率です。

(複利原価率については、以下の「複利原価率とは」を参照してください。)

 

・居住建物の敷地の所有権

 

20年後の3,000万円を利率3%で計算すると、現在の価値は1,662万円となります。

これが、子供の所有権の相続価額になります。

 

・敷地利用権

 

土地の価額から所有権を引いた残りが、敷地利用権となります。

 

3,000万円-1,662万円=1,338万円

 

 

 

図 敷地利用権と居住建物の敷地の所有権の価値

 

 

これを、法律の用語で書くと以下のようになります。
 

・配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利
 土地等の時価 - 土地等の時価×存続年数に応じた民法の法定利率による複利原価率

 

・居住建物の敷地の所有権等
 土地等の時価 - 敷地の利用に関する権利の価額

 

 

 


複利原価率とは

 

年3%の利息の場合、今の100万円は一年後に103万円になりますね。

逆に1年後の103万円は、今はいくらでしょうか?

 

計算式は 103万円 ÷ 1.03 = 100万円 です。

 

では1年後の100万円は、今いくらでしょうか?

 

計算式は 100万円 ÷ 1.03 = 97.1万円 ですね。

 

以下の図も参考にしてください。

 

 

2年後の200万円は、今はいくらでしょうか?


 200万円 ÷ 1.03 ÷ 1.03 = 188.6万円ですね。

 

つまり、2年後の金額Aの現在の価額を求める式は

 

 
 A ÷ 1.03 ÷ 1.03  となります。
 
これは書き換えると A × ( 1 ÷ 1.03 ÷ 1.03 ) と同じです。
 
このカッコの中を計算すると 0.943.... となります。
 
この 0.943 は年3%の利率の場合の2年の複利原価率となります。
 
もうおわかりと思いますが、将来の金額が現在いくらかを計算するための率を、複利原価率と言います。
では、3%の利率で、10年後にAの金額になる計算は?
 A  × ( 1 ÷ 1.03 ÷ 1.03÷ 1.03÷ 1.03÷ 1.03÷ 1.03÷ 1.03÷ 1.03÷ 1.03÷ 1.03 )

 

となり、 カッコの中を計算すると 0.744.... となります。

つまり、複利原価率は 0.744 です。

 

複利原価率はもう大丈夫ですね。

 


特別の寄与

特別の寄与の詳細内容については、相続お役立ち情報を参照してください。

 

◆ 特別の寄与に係る税金

 

特別寄与料に係る課税については、以下のように規定されました。

 

・特別寄与料の額が確定した場合には、当該特別寄与者が遺贈によりその額を取得したとみなし、課税する。

 

相続税の計算方法については、非常に複雑なため、ここでは省略しますが、法定相続人以外の人が、遺言書で、財産を相続する場合と同じ扱いになります。

 

これはちょっと、残念な気がします。

なぜなら、相続人以外の人が財産を相続すると、相続税が1.2倍になるルールがあるからです。

 

それなら、特別の寄与を利用せずに、旦那様がその分相続した方が、相続税が安く済むことになりますね。

 

税務署も、民法改正の意図をくみとって、もう少し粋な計らいをしてほしいものです。

 

以下の図は相続税が2割加算になる対象の人を表しています。

 

◆ 特別寄与に関する、その他の規定は以下の通りです。

 

・新たに相続税の申告義務が生じた場合は、それを知った日から10ヶ月以内に相続税の申告が必要。

 

つまり、義理の祖父母を介護していた奥様が、特別寄与として財産の一部を相続した場合は、10ヶ月以内に相続税の申告が必要となります。

 

・相続人が支払うべき特別寄与料の額は、当該相続人に係る相続税の課税価格から控除する

 

これは、当然ですね。
相続人は奥様に支払った特別寄与分は、結果として相続していないのと同じですから、相続財産の額からマイナスします。

 

・上記を相続税における更正の請求事由の対象に加える

特別寄与により、申告した相続税の修正が必要になる場合は、それを理由に相続税を修正できます。
あたりまえですね。

 

ここに記載しました内容は、できるだけわかりやすく書いたため、一部の例外などは省略していますことを、ご了承ください。

 

今回ご紹介した内容以外にも、多くの改正が行われています。

 

詳細は、以下の自民党HPの税制改正大綱を参照ください。

https://www.jimin.jp/news/policy/138664.html

と言っても、大量で難解な文章ですが.. (笑)

 

ご不明な点がありましたら、遠慮なくメール等でお問い合わせください。